1.日時
令和4年9月2日金曜日午後6時から7時45分まで
2.場所
web会議
3.出席者
- 委員長:谷川章雄
- 副委員長:池上悟
- 委員:松井敏也
- 事務局:社会教育課長、社会教育課文化財担当副主幹、社会教育課文化財担当主査
4.欠席者
なし
5.議題
- 猪方小川塚古墳の遮水処理改修について
- 白井塚古墳の保存整備について
- 兜塚古墳について
その他
6.配布資料
- 猪方小川塚古墳の遮水処理改修について
- 白井塚古墳の保存整備について
- 兜塚古墳について
7.会議の結果
議題1.猪方小川塚古墳の遮水処理改修について
事務局から、令和3年度に実施した猪方小川塚古墳石室覆屋内の遮水処理改修について、経緯と改修内容、その後の状況等について説明しました。
- 猪方小川塚古墳については、石室保存処理後の経過観察と必要なメンテナンスを継続してきましたが、前回の委員会で報告したとおり、経過観察のなかで、覆屋内部に侵入した雨水等が石室前室部分に滞水するなど、覆屋の遮水処理に支障がある状況が確認されていました。現時点で石室の強度自体に問題はないものの、前室の壁面を中心に白色物質が表出し、地衣類の発生が認められるなど、石室の保存環境を考えると、覆屋内部及び石室前室部分への雨水等の侵入を制御する対策が必要な状況でした。経過観察のなかでは、その原因は墳丘上に敷設した遮水シートの傾斜にあると想定されました。
- 以上のような状況を改善するため、令和4年2月3日から3月15日にかけて遮水処理改修を実施しました。改修作業では、覆屋内部の土系舗装をいったん除去し、覆屋壁面下に設置した仕切り板の高さを調整しながら、土系舗装の下に敷設した遮水シートの傾斜を修正、必要に応じて遮水シートを除去し、墳丘保護のためメッシュシートを敷設して、石室外周の土系舗装を現状に復しました。なお、改修作業時には、松井委員に現地を視察していただき、実施にあたっては東京都指定史跡の現状変更申請を行い、東京都文化財保存事業費補助事業「猪方小川塚古墳環境整備」事業として実施しました。
- 改修後は、前室両脇の土系舗装からの雨水等の浸み出しは見られず、土系舗装上面の白色物質の表出、地衣類の発生も見られないこと、玄室西壁外縁で生じた瘡蓋状剥離、粉状化も進行していないこと等から、遮水処理改修の結果、覆屋外から土系舗装の上面を通じた雨水等の流入や、前室両脇からの雨水等の流入は遮断することができたものと考えています。
- しかし、玄室壁面、特に西側下位の湿度は依然高いようで、一部壁面の目地部分に地衣類の発生が確認され、前室内でも白色物質の表出や地衣類の発生が多少続いています。前者については、長期的な視点で引き続き経過観察が必要であること、後者については、覆屋前面の強化ガラスの下部から雨水等が侵入している可能性が考えられることから、この部分を中心に引き続き経過観察を続けながら、対策を検討していく必要があります。
- なお、改修作業完了後、土系舗装上に足跡や引っ掻き傷が残されていることが確認されており、覆屋内部に動物が侵入したものと考えられますが、その後、覆屋北側の壁と屋根の隙間にネットを張った後は、侵入の痕跡は見られていません。
- 委員からは、引き続き、保存処理後の経過観察と必要な措置を継続しながら、少しずつでも保存環境に不利な要素を取り除いていく必要がある旨、発言がありました。
議題2.白井塚古墳の保存整備について
事務局から、前回の委員会後に実施した試掘調査の結果と公園整備案、工事に先立つ発掘調査の状況等について説明しました。
- これまで進めてきた公園全体の整備計画案では、大きく削平されている墳丘の西側・南側については、墳丘の崩落防止及び隣接地との関係等から擁壁を整備すること、遺存状態が良好な古墳東側からアプローチする際に、古墳の形態・規模が視覚的に捉えやすいように整備すること、さらに、南側の市道から畑の間を通過する導入通路部分、通路に面した竹林部分、その先の周溝部分、墳丘部分といった、ゾーンに応じた整備を念頭に設計を進めてきたことを報告しました。
- 令和3年9月には、工事の影響を受ける範囲内の状況を確認することを目的に、2回目の試掘調査を実施しました。その結果、墳頂のほぼ中央部にて、粘土槨あるいは木棺直葬と考えられる2基の主体部が確認されるとともに、1回目の試掘調査で確認されていた墳頂北寄りの円礫の集中部は、遺存状態があまり良好ではない礫槨の一部であると想定されました。そのうち、墳頂のほぼ中央部で検出された主体部は、現況の墳頂面から1mほどの深さで検出されており、工事の影響を受けることはないと判断できました。一方、礫槨の一部と考えられる円礫の集中部は、墳丘西側の崖面保護のために必要な擁壁の施工範囲に該当することが判明しましたが、墳丘の保護・整備に当たり擁壁の設置は止むを得ない状況であること、ま た礫槨の遺存状況も良くないと判断できたため、中心部で確認された当初の主体部を現状で保存し、礫槨については記録保存とすることを前提に、公園の整備計画を進めてきました。
- この計画に基づき、令和4年度に墳丘南側、西側の擁壁の整備に着手するため、擁壁工事の影響を受ける礫槨部分を中心に記録保存のための調査と、墳丘中心部の主体部の確認調査に着手しました。調査は令和4年5月10日に着手し、礫槨の一部に絡んだ高木の根の処理を行いながら全容を検出したところ、遺存状態が良好ではない礫槨の一部と判断していた円礫の集中部は、遺存状態が極めて良好な2基を含む3基の礫槨の一部であることが判明しました。また、調査の結果、当初の主体部と考えていた墳丘中央部の掘り込みは、後世のものであることが判明しました。この状況につきましては、先日、現地を視察いただいています。
- 今回発見された礫槨、さらに白井塚古墳の文化財的な位置付けについては、現在、発掘調査の整理作業を進めている段階であるため明言できません。しかし、多摩川流域、さらに南関東でみても、礫槨を有する古墳の数は限られている中で、大変貴重な事例であることは確かであると考えられます。また、発見された礫槨の遺存状態が良好であること、さらに複数の礫槨が残された多重埋葬の古墳であること等から、白井塚古墳は礫槨を有する古墳が比較的多く築造されたとみられる狛江古墳群の特性を良く留めた古墳であると考えられます。
- そのため、これら礫槨が失われた場合、白井塚古墳の文化財的な価値が著しく損なわれてしまうと考えられることから、これら礫槨を現地に保存する方策を検討するため、今年度の擁壁工事着手は見送り、現状のまま埋め戻した上で、改めて保存整備策を検討していくことになりました。
- 今後は、整備部局にて、礫槨の全体を現地で保存することができるように、擁壁の形態・構造等の見直しが可能か否かを検討していく予定です。
- 委員からは、今回発見された礫槨は大変貴重なものであり、可能な限り現地に保存できることが望ましく、礫槨を破壊することなく保存整備できる方法を検討して欲しい旨、意見が出され、この点については全会一致の意見となりました。
- 委員からは、具体的な検討は、擁壁の見直しが可能か否かに関わることから、その状況を見ながら、今後検討していく必要があるとの意見が出されました。
- これらの意見を受けて、擁壁の見直しが可能で、礫槨が現地保存できた場合、実物を見学できるようなかたちで保存整備できることが望ましく、実物の展示を含めた保存整備の可能性について、検討していくこととなりました。
議題3.兜塚古墳について
- 事務局から、兜塚古墳については、前回の委員会において、事務局から、墳丘上の樹木、墳端の樹木、外周の整備、史跡入り口部分の整備など、現状と課題について説明したところ、委員からは、今後、全体の整備計画の策定も視野に入れながら、中・長期的に検討していく必要があるとの指摘がなされています。様々な課題がある中、敷地南縁に並ぶ高木4本については、令和2年度に樹木診断を実施した結果、現状では危険な状態であると診断されており、早急に対応が必要であること、また、敷地境界の未舗装部分は、雨天時に水溜まり、泥濘となり、墳丘上の土砂が市道上に流出してしまう状況であること等から、令和4年度内に、敷地南縁の高木を伐採し、未舗装部分に土系の簡易舗装を施すといった応急的な措置を実施したい旨を説明しました。
- 委員からは、現地の状況を見ても応急的な対策が必要な状況であることは確実であるため、事務局の提案の内容で進めて欲しい旨、意見がありました。
- 委員から、兜塚古墳は遺存状態が良い古墳であるので、今後、全体的な整備について検討を進めて欲しい旨、意見がありました。
その他
狛江市古墳保存整備検討委員会委員名簿
委員長
谷川章雄(早稲田大学教授、考古学)
副委員長
池上悟(立正大学名誉教授、考古学)
委員
松井敏也(筑波大学教授、保存科学)
公募市民委員がいない理由
審議内容が、古墳の整備等に関する極めて専門的な知識が求められることから、専門各分野の学識経験者で構成しているため。