1.日時
令和5年6月22日木曜日午前10時30分から正午まで・23日金曜日午前11時から正午まで
2.場所
猪方小川塚古墳公園
3.出席者
- 委員長:谷川章雄
- 副委員長:池上悟
- 委員:松井敏也
- 事務局:社会教育課文化財担当副主幹、社会教育課文化財担当主査
4.欠席者
なし
5.議題
- 猪方小川塚古墳保存処理後の経過観察における課題と令和5年度の改善策(案)について
その他
6.配布資料
- 猪方小川塚古墳保存処理後の経過観察における課題と令和5年度の改善策(案)
- 白色物質除去の状況
- 覆屋強化ガラス下に設置する遮水帯模式図
7.会議の結果
令和2年4月1日に猪方小川塚古墳公園が開園し、4月で3年が経過したことから、6月22日に松井委員、23日に谷川委員長・池上副委員長にそれぞれ視察いただいた。視察に際して、事務局から、石室の保存処理後の経過観察における課題と改善策(案)等を説明した上で、各委員から意見をいただいた。
議題1.猪方小川塚古墳保存処理後の経過観察における課題と令和5年度の改善策(案)について
事務局から、石室の保存処理後の経過観察における課題と、令和5年度の改善策(案)について、次のとおり説明しました。
- 開園後、石室の表面に白色物質の表出が目立つようになり、3月毎に実施している石室保存処理の経過観察及びメンテナンス作業の都度、石室の表面に表出した白色物質を刷毛等を用いて物理的に除去してきました。しかし、令和4年度に、松井委員の指導の下、白色物質の除去を目的に、硫酸カルシウムを主成分とした白色スケールの溶解剤を試験的に塗布したところ、白色物質の除去に極めて効果的であり、塗布後約4月を経過した後も、石室の保存状態に影響が見られないことから、今年度のメンテナンスにおいては、この薬剤を用いて白色物質の除去を進めています。玄室については5月30日・31日に、前室部分については6月21日・22日に、白色物質の除去作業を進め、石室の表面の状況はかなり改善しました。しかし、著しく結晶化が進んだ部分などは、この薬剤では除去が難い状況です。
- 石室覆屋の遮水処理については、前回の会議で報告したとおり、令和3年度に石室両側面外周の土系舗装下の遮水処理について改修しました。その後、石室両側面外周の土系舗装からの雨水等の浸み出しは減少しました。しかし、石室覆屋手前の強化ガラス下の隙間から雨水等の侵入が見られ、強化ガラスの内側直下に地衣類が発生し、前室框石の前面表層では粉状化が見られます。粉状化の要因としては、前室框石が強化ガラス下からの雨水等の侵入により湿度が高い状態になりやすいことに加え、ガラス越しに陽当たりが良く、乾湿を繰り返す環境下にあり、石材表面の劣化が進行しやすい状況にあるためと考えられます。そのため、強化ガラスの下の隙間から侵入した雨水等が框石に到達しないように、強化ガラスの内側に遮 水帯を設置したいと考えています。
- 石室石材の外縁や切石の小口面などで、表面の瘡蓋状剥離や粉状化などが見られます。経過観察及びメンテナンスの際に、発見次第、薬剤を追加塗布するなど対応していますが、遮水処理の改修を進めるなど、根本的な対策が必要と考えています。
- 玄室側壁の湿度は依然高く、一部壁面の目地に地衣類の発生が確認されています。これまで石室覆屋内部の温・湿度については継続して計測しており、覆屋内部の環境が屋外の環境変化と連動していることを確認していますが、大きく窪んだ形状である玄室内部は空気が対流せず、常に湿度が高い状況にある可能性が考えられます。そのため、今年度からは、温・湿度計を追加設置し、玄室内部の温・湿度変化を計測していきます。その結果をみながら、玄室内部の換気の必要性について検討していきたいと考えています。
以上の報告に対して、委員からは次の意見が出されました。
- 石室は、保存処理後3年が経過しているが、内部に大きな剥落や破損・欠損、石材の軟化や収縮変形などは認められず、当初の保存処理は概ね成功しており、その後の経過も大きな問題はないと思われる。ただし、石室の外周や石材の破断面が露出している部分など、雨水等の影響を受けやすい部分については課題がある。これらの点については、引き続き、細やかに対応していく必要がある。
- 結晶化が進んだ白色物質の除去が難い点に関しては、白色物質自体は石膏(硫酸カルシウムを主成分とする鉱物)であるが、それと結合するナトリウムの数によって結晶化する構造が異なるため、今回の使用した薬剤では除去し切れない可能性が考えられること、また、石膏の結晶化が進行する条件等を考えると、薬剤による除去は、温・湿度が高い環境化においてより効果的であることから、薬剤塗布の方法・塗布時の環境に配慮する、さらには別の薬剤で試験するなど検討が必要である。
- 前室手前の遮水帯の設置については、強化ガラス下の隙間からの雨水の侵入を防ぐためであれば、大掛かりな遮水帯を設置するのではなく、一旦、強化ガラス下の隙間を塞ぐ細工を施し様子を見た上で、遮水帯の設置について検討するといった2段階で対応した方がよい。
- まずは遮水処理の改善が最優先であるが、前室の石材破断面が露出した部分や玄室左奥の破断面などは、発見時の状態を展示しているものの、本来見えない部分でもあり、将来的には、保護のために破断面を疑土で覆うなどの対策が必要である。
- ガラス越しに石室が観察し難いため、何らかの対策が必要である。
各委員からの意見を受けて、令和5年度の猪方小川塚古墳の保存環境の改善策を次のとおりとしました。
- 白色物質の除去については、薬剤による除去を継続しながら、より効果的な薬剤の試験及び塗布方法の検討を行っていく。
- 前室手前の遮水については、強化ガラスの下の隙間からの雨水等の侵入を止める措置を行った上で経過を観察し、必要であれば改めて遮水帯の設置を検討していく。
- 石材破断面を擬土で覆う点については、まずは遮水状況の改善を優先し、改善が見られた後に、対応できるように具体的な方策を検討していく。
- ガラス越しに石室内部が観察し難い点については、内部に照明を設置することで改善されることから、具体的な方策を検討していく。その際、石材に常時照明が照射される状況にあると、光合成が促進され、地衣類が発生する要因となることから、見学者に反応するセンサーと連動した照明とすることを検討していく。
その他
- 次回会議等の日程については、改めて調整していくこととしました。
狛江市古墳保存整備検討委員会委員名簿
委員長
谷川章雄(早稲田大学教授、考古学)
副委員長
池上悟(立正大学名誉教授、考古学)
委員
松井敏也(筑波大学教授、保存科学)
公募市民委員がいない理由
審議内容が、古墳の整備等に関する極めて専門的な知識が求められることから、専門各分野の学識経験者で構成しているため。