保護者インタビュー(ガク☆チキ第5号)

 狛江市の特別支援教室で,自分の苦手や困ったことを分析し、対処方法を研究する「自分研究」に取り組む小学校5年生の「てるくん」のお母さんにお話を伺いました。(インタビュー:ガクチキ編集部)

 

てるくんは,どのようなことを苦手にしていたのでしょうか。
話すことが好きなんですけど,うまく自分の中で考えをまとめて話すことが苦手ですね。あと,そのときに話していいタイミングかどうか見極めずに話し出してしまうことがあったり,話の仕方もいきなり結論を言ったり,さわりの部分だけを繰り返したり,話の仕方が上手ではないんです。
話すこと自体は好きなんですよね。
すごく好きです。ときどきすごくいいことも言うし,分かりやすく表現もできるんですけど,一人で話すと要点を得なくて,すごく損する感じなんですよね。
学校の友達はてるくんとどのように接しているのでしょうか。
てると仲がいい子は,上手くかわしたり,注意してくれたり,ときには突っ込みをいれてそらしてくれたりしています。みんな,てるの良いところが分かっていて,認めてくれています。
その友達は,てるくんとの付き合いが長い子が多いのでしょうか。
クラスが一緒になってから仲良くなった子もいるし,何が響いたのか分からないのですけど,子ども同士で何か響くものがあったみたいで,それからずっと友達になってくれている子もいます。最初から仲が良かった子ばかりでもありませんね。
てるくん自身,とても苦労した時期があったようですが。
てるが3年生のとき,学校に行きたがらなかった時期があって,そのときは毎朝,家を出る前に15分くらいずっと行きたくないなー行きたくないなーって言ってましたね。そのとき,他にも同じように学校に行きたがらなかった子もいたので,多分,てるとその子で気持ちを共有していたんだと思います。それで,なんとか学校に行っても,なかなか校舎の中に入れなくて,特別支援教室の玄関から入ったことも何回かありました。
そのとき,お母さんの目にはてるくんはどのように映っていましたか。
3年生のときは,いつもつらいって言っていて,時にはもっとひどいことも言っていたりして。そういうときは,親もつらいじゃないですか。子どもに何かしてあげたいんだけど,親の方もどうしたらいいのか分からなくて,「怒りの逃がし方」とかそういう本とかをたくさん買って読んだりしたんですけど。でも,やっぱりその状況が分かっても,肝心のどうしたらいいのかという部分が全く分からなくて。
そのときの状況は分かっても,解決方法がすぐに見つかるわけではない。
そのとき,ちょうど今やっている自分研究のように,ノートに書いてみたらどうかと思って書かせたことがあったんですけど,結局,それを書かせてみたはいいけど,結局どうしたらいいか分からなくて。解決策が全然見えてこなかった。だから,その後,特別支援教室で自分研究をやっているのを見て,これが正解かみたいな感じでしたね。
てるくんがふたば教室に通うことになったきっかけは。
幼稚園のときに,先生から療育を勧められたんです。でも,そのときは療育の施設が一杯ですぐには入れなくて,半年待って,半年通ったのですけど,そのときに半年だけでは変わらないだろうな,って思ったんですね。ですから,小学校に入学する前に教育委員会の就学相談に行ったときは,もうどうしたらいいのか分からないような状況だったんですが,そのときの就学相談の先生に「特別支援教室があるから大丈夫。きっと変わるから」って言ってもらったんですね。そのとき,その言葉が私の中に本当にスッと入ってきて,あ,そういうものなんだ,それじゃあもう通わせよう。という感じで,そのまま1年生から通うことにしました。
当時,特別支援教室にはどのようなイメージがありましたか。
当時は,子育てのそういう情報ってあまりなかったんですね。しかも,てるは他の市の幼稚園に通っていたので,さらに情報が全然入ってこなかったんです。周りから聞けることもなくて。でも実際に入学してみたら当時の特別支援教室の保護者の皆さんが,特別支援教室ってこういうところだよっていう冊子をつくられていて。それを読んで,また私の中でストンと落ちるものがあって。私たちの場合は,初めは情報は少なかったんですけど,少しずつ周りからの情報で納得させていただいた感じです。
小さい頃のてるくんはどのような子だったのでしょうか。
2歳の健診のときに,先生にうちの子大丈夫ですか?って聞いても,大丈夫です大丈夫です,全然普通です。って言われて終わってしまったんですけど,てるは産まれたときとても小さくて,首のすわりも遅くて,何かあるんじゃないかって思いながら育てていて。抱っこしてて下に下ろすとすぐ泣き出すので,本当に1日中抱っこしてて,寝るときも抱っこしたまま寝たりして。パパが会社に行って,家に帰ってくるまでずっと同じ状態。
てるくんはとても繊細ですよね。感じるものが人より強い。
そうですね。これで表現するのも上手だったらすごい天才だったのかもしれない!って思いますけど,でも,つたない言葉でもとても良いことを言うときもあって。
お母さんとしてもこれまで色々なことを感じて来られたと思いますが,今振り返ってみてどうですか。
去年,他の学校の特別支援教室を利用する1年生の子のお母さんが「うちの子これで本当に大丈夫かしら」ってとても不安がっていたんですよね。それを聞いて,私も同じように思ってたことをふと思い出して。1年生の頃は,授業中に椅子をずっとガッタンガッタン揺らしていた子が,今,4年生になってきちんと座って先生の話が聞けて,しかもみんなの前で堂々と発表できるようになって。あと「わー」ってなってしまった下級生を落ち着かせたりする姿を見て,本当にここに通わせて良かったな,って思いました。ですから,そのお母さんに「大丈夫。きっと変わりますから」って伝えました。多分,そのお母さんも同じくらい年数が経てば,きっと同じことを他のお母さんに言うんだろうなと思いながら。最初は,特別支援に関する情報も本当に少なかったし,本当に大丈夫なのかなって不安に思うこともあったんですけど,てるのことをずっと励まして,引っ張ってくれる先生がそばにいる時間があるのが良かったんだと思います。家で親が先生と同じやり方で子どもを褒めても,子どもとしても,やっぱり親だから甘いんでしょ,といって聞いてくれない部分もありますから。それが先生という第三者的な立場の人から褒めてもらったり,叱ってもらったりすることが,すごくてるの自信になって,それで変わっていったのかなって思います。
今,てるくんはどうですか。
とりあえず,自分からすすんで学校に行っているっていうのが一番ですね。てるが1年生のときは,学校まで自分で行けるかどうか分からなくて怖い,って言うので,私が毎日学校まで付き添ったんですね。それが2年生の半ばまで続いて,それが2年生の後半から1人で行くようになったんですけど,それも本人にとっては多分不安だったんだと思うんですよね。それで,3年生になって学校に行きたくない,ってなったんです。そのときが一番大変でしたね。そのときに比べると,今は毎日学校も楽しいし,ご飯もおいしく食べられています。やっぱり,ご飯をおいしく食べられるのって幸せですよね。
自分研究をやりはじめてから,何か変わっていったところはありますか。
自分研究って「自分がこうなのはこうだからだ」という筋道を立てて考えることができるので,すごく前向きになりました。それまでは,絶対に失敗しちゃいけないって常に緊張感が張りつめているような状況で,そこで何か失敗をすると「もーだめだ」となっていたところが,自分で自分にドンマイと言えるようになりましたね。たぶん,次はこうやってみようと考えられるようになったので,そこが大きかったと思います。
てるくんは人前に立つことも苦手だったんですか。
人前に立つのはダメでしたね。てるは感じ取る力が強いせいか,恥ずかしいという気持ちも人の何倍も強くて。まだ幼稚園のときは,セリフの長い役とかも結構やっていたんですけど,小学校に入ってからは恥ずかしい気持ちが徐々に強くなってきたみたいで。基本的に感覚はすべて敏感でしたね。音とか臭いも苦手で。
今のてるくんからは想像つかないですね。
昔はもう風が吹かなくても倒れちゃう,みたいなところがあったんですけど,本当にそこが変わりましたね。今も揺れることはあるんですけど,折れなくなった。戻って来れるというか。それが前と違うところですね。
狛江市の特別支援教室や学校が,これからこうなっていくといいなと思うことはありますか。
特別支援の先生をもっと増やしてほしいですね。今は先生たちも結構きついんじゃないかなと思うんです。特別支援に通う子って増えていると思うんですけど,今の状態だと,親がうちの子を通わせたいと思っても,先生がいっぱいいっぱいのような気がしていて。そうすると,じゃあうちはいいかなって遠慮してしまう家が出てきたりするような気がするんですよね。特別支援教室に入るきっかけって色々だと思うんですけど,入るための門がきちんと開いてないと通うのも難しいし,反対にたくさん子どもを詰め込んでも,先生の方が少ないと子どもをフォローしきれなくなるじゃないですか。ですから,特別支援教室の先生を増やしてほしいですね。あと,特別支援教室から通常学級の担任になる先生がいると思うんですけど,それはすごくいいと思います。特別支援教室でフォローしきれない子たちも見ることができるので。でも,学校の先生って今はすごく大変だから,特別支援でやっていることは本当は他の先生もみんな知ってて欲しいって思うこともあるんですけど。もちろん,通級の子どもたちだけではなくて,固定学級の子どもたちもそうですし,先生だけではなくて親としても知っていなければならないこともあるので,親が家でできることとか,もっと色々なことを知る機会があったらいいなと思います。